わたしはずっと、なぜだか文章を書くことが好きで、小説はいいな、小説はいいなと思っていた 小説を読むことというより、小説を書くことというより、小説というものそのものを好きなようだった
ところがわたしは小説を無理に続けるつもりはなくて、やめたい、やめようと思ったらいつでもやめていいと思っている
これはずっとそう思っていて、なぜならわたしは「これしかできない」という思想を嫌悪しているから
芸大生だったころ、自分にはこれしかない、これしかできないって言っている人がわりと多くいた わたしはそんなことないだろと思っていた ほんとうにそういう人もいるだろうけど、その言葉はその他のすべてを経験してからしか言えない言葉だろと思っていた
わたしには、あなたにはいつでも他にいくつもの可能性があって、わたしが、あなたがそのたくさんの可能性の中からこれを、それを選ぶということに意味があるのでしょ そうじゃないとしたらそんなにつまらない話はない
いま手元に写真という表現手段もあって、もともと日記も好きだし、短歌とかレビューもおもしろいなと思えるし、酒を飲むのも酒を作るのも好きだ、他にもたくさんたのしいこと、おもしろいことが身近にあって、ちかごろは小説を書くということも以前と比べると少なくなっている
それでもときおり、わたしには小説が、小説を書くことがひつようだな、と思うことがある
なにか、フィクションの皮を被せて昇華しなければやりきれないものがある
わたしにとって完全なフィクションは小説だけなのかもしれない
生きてるんだからこれからいろいろなこともあるだろう 小説どころか、創作なんかしてるヒマないよって思うこともあるかもしれない それでも辞めることはないんだな わざわざ、辞める! って決めるひつようなんて、いつもない
リビングから、ソファにもたれかかって眠っている同居人の寝息が聞こえてくる
小説はさいごまで残しておこう そう思った午前1時35分